ガッツ石松さん・中村玉緒さんの死因「高齢者肺炎」とは
高齢者の肺炎 ― その特徴と、私たちにできる備え
2026年6月、元プロボクシング世界ライト級王者のガッツ石松さん(76歳)、そして女優の中村玉緒さん(86歳)が、相次いで肺炎のため亡くなられました。お二人のご冥福を心よりお祈り申し上げます。
「肺炎」と聞くと、若い方には“こじらせた風邪”くらいの軽い印象があるかもしれません。しかし高齢の方にとって、肺炎は決して油断できない、ときに命に関わる病気です。
今回は呼吸器内科の視点から、高齢者の肺炎の特徴と、ご家庭でできる備えについてお話しします。
高齢者にとって肺炎が「怖い」理由
日本人の死因をみると、「肺炎」は第五位、「誤嚥(ごえん)性肺炎」は第6位を占め、両者を合わせると死因の上位に並びます(厚生労働省・令和五年人口動態統計)。
注目すべきは、肺炎で亡くなる方の9割以上が65歳以上の高齢者だという点です。
年齢とともに免疫力や体力、咳をして異物を出す力が低下し、心臓や肺の病気、糖尿病といった持病が加わると、肺炎は一気に重症化しやすくなります。
「いつもの風邪」と違う ― 気づきにくい症状
若い方の肺炎では、高熱・激しい咳・膿のような痰といった“わかりやすい”症状が出ます。
ところが高齢の方では、こうした典型的な症状が出にくいのが大きな特徴です。
次のような「なんとなくの変化」が、唯一のサインであることも少なくありません。
- なんとなく元気がない、一日中ぼーっとしている
- 食欲が落ちた、急に食べなくなった
- 呼吸が速い、肩で息をしている
- つじつまの合わないことを言う(せん妄)
- 以前より転びやすくなった
熱が出ないまま静かに進行することも珍しくありません。ご家族からみて「いつもと様子が違う」と感じたら、それは体からの大切なサインです。
見過ごされやすい「誤嚥性肺炎」
高齢者の肺炎で特に多いのが、誤嚥性肺炎です。加齢で飲み込む力(嚥下機能)が衰えると、食べ物や唾液が誤って気管に入り込み、口の中の細菌が肺で炎症を起こします。
脳梗塞の後遺症やパーキンソン病のある方、寝たきりの方では特に注意が必要です。
やっかいなのは、眠っている間に唾液を少しずつ気管に吸い込んでしまう「不顕性(ふけんせい)誤嚥」です。むせる自覚がないため、ご本人もご家族も気づかないうちに繰り返し、肺炎を起こしてしまうことがあります。
肺炎は「治れば終わり」ではない ― その後の落とし穴
高齢の方の肺炎が怖いのは、急性期の重症化だけではありません。治療が一段落しても、心身にさまざまな“爪あと”を残すことがあります。
ADLの低下
まず大きいのが、生活する力(ADL=日常生活動作)の低下です。
肺炎の治療では安静や入院が必要になりますが、わずか数日寝て過ごすだけでも、高齢の方の筋力はみるみる落ちていきます。これを「廃用症候群」と呼びます。
やっかいなのは、いったん下がったADLは元の水準まで戻りにくいという点です。
肺炎そのものは治っても、「歩けなくなった」「食べる量が減った」「ぼんやりするようになった」という形で、生活の質が大きく損なわれてしまうことが少なくありません。
持病への影響
もう一つ見落とせないのが、心臓をはじめとする他の持病への影響です。
肺炎にかかると、発熱・頻脈・体内の酸素不足によって心臓の負担が一気に増します。さらに炎症そのものが心臓のはたらきを抑えるため、もともと心臓の弱い方では心不全が急に悪化したり、狭心症・心筋梗塞・不整脈が引き起こされたりすることがあります。
心臓だけでなく、腎臓病や糖尿病といった持病も、肺炎をきっかけに連鎖的に悪くなることがあります。
実際、肺炎で入院した高齢の方は、退院後も数か月にわたって再入院や体調悪化のリスクが高い状態が続くことが報告されています。「肺炎が治った=元どおり」とは限らないのです。
だからこそ、そもそも肺炎に“かからない”“重くしない”ための予防が、何よりも大切になります。
ご家庭でできる予防と備え
肺炎は、正しく備えれば「防げる病気」でもあります。次の四つを意識してみてください。
- ワクチン接種:肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチン、新型コロナワクチンは、発症と重症化を防ぐ大きな武器です。65歳以上の方は肺炎球菌ワクチンの定期接種制度が利用できます。
- 口腔(こうくう)ケア:歯みがきや入れ歯の手入れで口の中を清潔に保つことが、誤嚥性肺炎の予防に直結します。
- 飲み込む力を保つ:よく噛んで食べる、食後すぐに横にならない、口やのどの体操を取り入れる、といった工夫が有効です。
- 禁煙と持病の管理:喫煙は肺の防御力を確実に下げます。持病をきちんとコントロールすることも、立派な肺炎予防です。
「おかしいな」と思ったら、早めに受診を
高齢の方の肺炎は進行が早く、油断していると数日で一気に悪化します。
「食欲がない」「ぼんやりしている」「呼吸が苦しそう」といったサインがあれば、たとえ熱がなくても、早めにご相談ください。早期の診断と治療こそが、何よりの備えです。
当院では、呼吸器内科の専門的な診療に加え、各種ワクチン接種のご相談も承っております。
気になる症状やワクチンについて、どうぞお気軽にお声がけください。
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