年を取ったら粗食は危険?高齢者栄養の切り札は『たんぱく質』―筋肉を守って元気に長生きする食べ方
「年を取ったら、あっさりしたものを少し食べれば十分」
「肉はあまり食べない方が健康によさそう」
そう思っている方はいませんか?
もちろん食べ過ぎはよくありません。しかし、高齢になってからむしろ気をつけたいのが、「食べなさすぎ」、特に「たんぱく質不足」です。
年齢とともに食事量が減り、
「朝はパンとコーヒーだけ」
「昼はうどんだけ」
「夜はご飯と漬物で済ませる」
という食事になってくると、知らないうちに筋肉が減っていきます。
高齢者の健康を考えるうえで、たんぱく質はまさに「切り札」といえる栄養素の一つです。
なぜ高齢になると筋肉が減るのでしょう?
筋肉量は一般的に20~30歳代をピークに徐々に減り、60歳代後半から70歳代にかけて低下しやすくなります。
そして高齢になると、食欲が落ちる・活動量が減る・肉などが噛みにくくなる・病気や入院で寝ている期間が増える、といったことが重なってきます。
すると、
食べない → 筋肉が減る → 動かなくなる → お腹がすかない → さらに食べなくなる
という悪循環に陥ります。
筋肉量や筋力が低下した状態を「サルコペニア」と呼びます。
サルコペニアは単に「足腰が弱くなる」だけではありません。
転倒・骨折や要介護につながるほか、筋肉は糖や脂質の代謝にも関係しているため、全身の健康にも影響します。
普段の歩数を約3割に制限した高齢者では、わずか14日間で下肢筋量が約3.9%低下した研究も紹介されています。
「動かない期間をできるだけ作らない」ことも、立派な健康対策なのです。
高齢者こそ、たんぱく質を意識しましょう
ここで大切なポイントがあります。
同じ量のたんぱく質を食べても、高齢者では若い人ほど効率よく筋肉を作れなくなることがあります。 これを「同化抵抗性」といいます。
ある研究では、筋たんぱく質合成を最大化するために必要だった1回のたんぱく質摂取量は、若い男性では体重1kgあたり約0.24gだったのに対し、高齢男性では約0.40gでした。
ただし、これは研究条件下での「1回量」のデータであり、全員が毎食この量を必ず食べなければならないという意味ではありません。
要するに、 「高齢になったから、たんぱく質は少なくていい」のではなく、むしろ意識して食べる必要がある ということです。
では、1日にどのくらい食べればいい?
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、65歳以上のたんぱく質の推奨量は、男性60g/日、女性50g/日です。実際の目標量は身体活動量や必要エネルギー量によってさらに幅があります。
患者さんにわかりやすく考えるなら、 「高齢者では、まず体重1kgあたり1g程度のたんぱく質を意識してみる」 という考え方も一つの目安になります。たとえば体重60kgなら1日約60gです。
ただし、後で触れますが、腎臓病などがある方は別です。自己判断でたんぱく質を増やさないでください。
「夕食に肉を食べたから大丈夫」ではありません
実は、1日の合計量だけでなく、いつ食べるかも重要です。 日本人の食事では、たんぱく質が夕食に偏りやすく、朝食と昼食で不足しがちです。
高齢者では、1日の総量が足りていても3食への配分が偏っていると、フレイルとの関連が指摘されています。
典型的なのが、 以下のパターンです。
- 朝:パンとコーヒー
- 昼:うどん
- 夜:焼き魚や肉
これなら夕食にはたんぱく質がありますが、朝と昼がほとんどありません。
そこでおすすめしたいのが、 「まず朝食に、たんぱく質を一品足す」 ことです。
パンだけなら卵やヨーグルトを。ご飯なら納豆や卵を。牛乳や豆乳を一杯加えるのもよいでしょう。 完璧な食事を目指すより、今の食事に一品足す方が長続きします。
卵1個、納豆1パックにはどのくらい?
「たんぱく質を食べましょう」と言われても、患者さんには案外わかりにくいものです。
身近な食品のたんぱく質量として、ゆで卵1個で約6g、納豆1パックで約6g、木綿豆腐1丁(300g)で約20gなどがあります。
つまり朝食が、「ご飯+納豆+卵」なら、それだけでたんぱく質を約12g上乗せできます。
「肉を100g食べなければ」と考える必要はありません。 卵、魚、肉、納豆、豆腐、牛乳、ヨーグルト、チーズなどを組み合わせればよいのです。
食が細い人には「ちょい足し」がおすすめ
高齢者に 「もっとたくさん食べてください」 と言っても、なかなか食べられません。 大切なのは量より栄養の密度です。
「ちょい足し」の例として、たとえばご飯にしらすを足す、味噌汁や料理に豆腐や卵を加える、ヨーグルトや牛乳にきな粉を入れる、魚の缶詰を利用する、高野豆腐を使う、コンビニならゆで卵・サラダチキン・枝豆などを選ぶ、といった方法です。
「食べる量を増やす」のではなく、「いつもの一口を少し栄養の濃い一口に変える」 これなら少食の方でも続けやすくなります。
Q.たんぱく質だけ食べれば筋肉は増えますか?
残念ながら、たんぱく質を食べるだけでは十分ではありません。 筋肉には「材料」と「刺激」の両方が必要です。
材料がたんぱく質、刺激が運動です。
ウォーキングは健康維持にとてもよい運動で、活動量を保つこと自体に大きな意味があります。一方、筋肉を増やしたい場合には、スクワットなどの筋力トレーニングも重要です。
といっても、いきなり、 「毎日スクワット20回!」 ではなかなか続きません。
続けられる方法として 「朝食後に椅子から立つときにスクワットを2回」「コーヒーができるまでに2回」 というように、すでにある生活習慣に運動をくっつけます。 これを「ハビットスタッキング」といいます。
2回でもいいから毎日続ける。慣れれば少しずつ増やす。 筋肉づくりでも、結局一番強いのは続けられる方法です。
「かくれ低栄養」に注意してください
体重が極端に減っていなくても、たんぱく質不足や低栄養が進んでいることがあります。 こんな変化は要注意です。
「最近疲れやすい」
「ペットボトルのふたが開けにくくなった」
「買い物に行くのが面倒になった」
「料理をする気にならない」
「食べる量が以前より減った」
「半年で2kg以上やせた」
単なる「年のせい」に見える変化の中に、低栄養やフレイルが隠れていることがあります。
Q.腎臓病がある人は、たんぱく質を増やしてもいい?
ここは非常に重要な例外です。
「高齢者にはたんぱく質が大切」といっても、すべての人が自己判断で高たんぱく食にすればよいわけではありません。
特に慢性腎臓病(CKD)がある方では、腎機能や栄養状態によって適切なたんぱく質量が変わります。KDIGO 2024ではCKD G3~G5の成人について、概ね0.8g/kg/日を維持し、進行リスクのあるCKDでは1.3g/kg/日を超えるような高たんぱく摂取を避けるよう示しています。
腎臓病、心不全などの持病がある方、医師から食事制限を受けている方は、主治医に相談してください。
まとめ 高齢者は「粗食」より「筋肉を守る食事」を
高齢になると食べる量が減るのは自然なことです。 だからこそ、「たくさん食べる」より「少ない量でも必要な栄養をとる」という発想が大切になります。
そして筋肉を守るためには、
- たんぱく質を意識する
- 夕食だけでなく朝・昼にも食べる
- 卵、納豆、魚、豆腐、乳製品などを上手に利用する
- 少食なら「ちょい足し」する
そして、できる範囲で身体を動かす。 これだけでも食生活はかなり変わります。
年齢を重ねると、 「もう年だから筋肉が落ちるのは仕方がない」 と思ってしまいがちです。 しかし、筋肉は高齢になってからも、栄養と運動によって守ることができます。
元気に歩く。自分で買い物に行く。自分で食事をする。そして、自分のことを自分でできる。 そのための大切な土台が筋肉です。
高齢者こそ、毎日の食卓に「たんぱく質」を。 これをぜひ意識してみてください。