高齢の方・持病のある方のRSウイルス感染症とワクチン|呼吸器内科医が解説
RSウイルスは「赤ちゃんの病気」だけではありません
「RSウイルス」と聞くと、小さなお子さんの病気を思い浮かべる方が多いと思います。
確かにほぼすべての子どもが2歳までに一度は感染しますが、RSウイルスは一度かかっても免疫が長続きせず、大人になってからも何度でも再感染します。
そして近年、高齢の方や、心臓・肺に持病のある方では、RSウイルスがインフルエンザと同じくらい重症化しやすいことが分かってきました。
2025年12月には日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会が合同で、高齢者へのRSウイルスワクチン接種を推奨する見解を公表しています。
今回は「大人のRSウイルス感染症」と、そのワクチンについて解説します。
RSウイルス感染症とは
うつり方
咳・くしゃみのしぶき(飛沫)や、ウイルスの付いた手・物を介して感染します。
潜伏期間と症状
感染から2〜8日(通常4〜6日)で、発熱・鼻水・咳などが出ます。
大人では
多くは「しつこい風邪」で済みますが、高齢の方や持病のある方では気管支炎・肺炎に進んだり、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や喘息の発作、心不全の悪化のきっかけになったりします。
治療
インフルエンザや新型コロナと違い、RSウイルスに効く抗ウイルス薬はありません。
治療は症状を和らげる対症療法(重症例では酸素投与・点滴・呼吸管理)が中心です。
流行時期
以前は冬の病気でしたが、新型コロナ流行以降は夏〜秋に流行する傾向がみられます。今年も8月下旬から全国で報告が増えました。
なお、国の報告は小児科の医療機関からのみ集計されるため、大人の流行の実態は数字に表れにくいのが現状です。
数字で見る「大人のRSウイルス」
| 項目 | データ | 出典 |
| 日本の60歳以上(年間推計) | RSウイルスによる急性呼吸器感染症 約70万人、入院 約6.3万人、院内死亡 約4,500人 | Savic 2023 |
| 国内の入院患者(18歳以上)RSV vs インフルエンザ | 人工呼吸管理が必要になった割合 9.7% vs 7.0%、院内死亡率 7.5% vs 6.6% | Inoue 2025 |
| 持病による入院リスク(65歳以上・米国) | 持病のない方と比べ、COPD 3.5〜13.4倍、心不全 5.9〜7.6倍、喘息 2.3〜2.5倍 | Branche 2022 |
| 高齢者施設での集団感染(国内) | 老人保健施設で入所者110人中49人が発熱、持病のある4人が亡くなった事例 | 3学会見解 2025 |
※ 死亡数の推計には海外データに基づく値が含まれ、日本の正確な死亡者数はまだ十分に分かっていません(3学会見解)。
| 呼吸器内科医から 「インフルエンザも新型コロナも陰性なのに、咳と息苦しさが長引く」――そんな高齢の方の中に、RSウイルスが隠れていることがあります。 大人ではこれまでRSウイルスの検査がほとんど行われてこなかったため、いわば“見えていなかった”病気です。COPD・喘息・心不全で通院中の方にとっては、インフルエンザと並んで警戒すべきウイルスといえます。 |
RSウイルスワクチンの種類と違い
国内で大人に使えるRSウイルスワクチンは3種類あります。
いずれもウイルス表面の「融合前Fたんぱく質(PreF)」を標的にしたワクチンで、1回の筋肉注射で免疫をつけます。インフルエンザのように毎年打つワクチンではありません。
| アレックスビー(GSK) | アブリスボ(ファイザー) | エムレスビア(モデルナ) | |
| 種類 | 組換えたんぱく(A型)+アジュバント | 組換えたんぱく(A型・B型の2価)、アジュバントなし | mRNAワクチン |
| 国内の対象 | 60歳以上/18歳以上で重症化リスクの高い方 | 60歳以上/妊婦(赤ちゃんを守る母子免疫) | 60歳以上(2025年5月承認、同年10月時点で未発売) |
| 1シーズン目の有効率 | RSウイルスによる下気道疾患 82.6%(持病のある方では94.6%) | 症状3つ以上の下気道疾患 85.7% | 症状3つ以上の下気道疾患 82.4% |
| 効果の持続 | 3シーズン通算 69.1% | 2シーズン通算 81.5%(症状3つ以上) | 約18か月で 49.9% |
| 接種部位の痛み | 60.9% | 11% | 56.3% |
| 当院 | ○ 接種できます | 取り扱いなし | 取り扱いなし |
※ 臨床試験ごとに対象者や「有効率」の定義が異なるため、数字を単純に比べることはできません。数値は3学会見解に基づきます。
それぞれの特徴
アレックスビー
免疫の反応を高める「アジュバント」(帯状疱疹ワクチン・シングリックスと同系統のAS01)を含み、高齢の方でもしっかり免疫がつくよう設計されています。持病のある60歳以上の方で特に高い有効性が示され、2026年5月には「18歳以上で重症化リスクの高い方」まで対象が広がりました。その分、腕の痛みなどの局所反応はやや出やすい傾向です。
アブリスボ
アジュバントを含まず、A型・B型の両方の抗原を含む2価ワクチンです。妊婦さんに接種して生まれてくる赤ちゃんを守る「母子免疫」の適応を持つ唯一のワクチンで、60歳以上の方にも使えます。デンマークの試験では、60歳以上のRSウイルスによる入院を83.3%減らしました。
エムレスビア
新型コロナワクチンと同じmRNAの技術を使ったワクチンです。
どんな方に接種をおすすめするか
日本では、大人のRSウイルスワクチンは任意接種で、費用は全額自己負担です。米国では「75歳以上のすべての方」と「50〜74歳で重症化リスクの高い方」に、1回の接種が推奨されています。こうした考え方も踏まえ、当院では特に次の方に接種の検討をおすすめしています。
- 75歳以上の方
- 60歳以上で、COPD・喘息・間質性肺炎などの肺の病気、心不全・狭心症などの心臓の病気、糖尿病、慢性腎臓病、慢性肝疾患をお持ちの方
- 高齢者施設に入所・通所している方
- 60歳未満(18歳以上)でも、上記の持病のほか、肥満(BMI30以上)や、病気・治療によって免疫が低下している方
追加接種について
現時点では2回目以降の接種の必要性は確立しておらず、米国でも「生涯1回」の扱いです。今後の研究結果に応じて、当院でも情報を更新します。
副反応と注意点
よくある副反応
アレックスビーの臨床試験では、接種部位の痛み 60.9%、だるさ 33.6%、38℃以上の発熱 2.0%でした。多くは数日以内におさまります。
まれな副反応
米国の報告では、接種後のギラン・バレー症候群(手足の筋力が低下する神経の病気)が100万回あたりアレックスビーで1.8件、アブリスボで4.4件みられました。頻度は低く、3学会は「接種の利益が上回る」としています。
国内でも2026年7月、RSウイルスワクチンの副反応疑い報告の対象にギラン・バレー症候群が加えられています。接種後に手足のしびれや力が入りにくい症状が出たら、すぐにご連絡ください。
接種を見合わせる場合
明らかな発熱(37.5℃を超える)がある方、重い急性の病気にかかっている方、ワクチンの成分で強いアレルギー(アナフィラキシー)を起こしたことがある方。
他のワクチンとの関係
インフルエンザ・新型コロナ・肺炎球菌・帯状疱疹ワクチンとの同時接種や接種間隔は、体調や持病をふまえてご相談ください。
| ご家族に妊婦さんがいらっしゃる方へ ・2026年4月から、妊婦さんへのRSウイルスワクチン(アブリスボ)が定期接種になりました。対象は妊娠28週0日〜36週6日の方で、大阪市では自己負担なしで受けられます。 ・お母さんの体でできた抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移り、受診が必要な重い下気道疾患を、生後90日までで81.8%、生後180日までで69.4%減らします。 ・新生児・乳児に直接投与する抗体製剤についても、国で定期接種化に向けた検討が進んでいます。 ・当院は内科のため、妊婦さん・お子さんへの接種は行っていません。かかりつけの産婦人科にご相談ください。なお、アレックスビーは妊婦さん(母子免疫)には使えません。 |
毎日の暮らしでできる予防
- こまめな手洗い・アルコールによる手指消毒、咳エチケットとマスク
- RSウイルスは乳幼児の間で流行します。風邪をひいているお孫さんと過ごした後は、特に手洗いを心がけましょう
- 吸入薬や心不全の薬など、持病の治療をきちんと続けることが重症化を防ぐ土台になります
- 息苦しさ、ゼーゼーする呼吸、急なむくみや体重増加(心不全の悪化のサイン)があれば早めに受診してください
当院でのRSウイルスワクチン接種
| 項目 | 内容 |
| 使用ワクチン | アレックスビー(グラクソ・スミスクライン) |
| 対象 | 60歳以上の方/18歳以上で重症化リスクの高い方 |
| 接種回数 | 1回(筋肉注射) |
| 費用 | 任意接種(全額自己負担)です。費用はお電話でお問い合わせください |
| ご予約 | ワクチンを準備するため、必ず事前にお電話ください(06-6631-2991) |
当院に通院中の方は、診察の際にお気軽にご相談ください。他院で持病の治療中の方は、主治医の先生とも相談のうえご検討ください。
| まとめ ・RSウイルスは大人も何度でもかかり、高齢の方・心臓や肺に持病のある方ではインフルエンザ並みに重症化することがあります ・特効薬がないため、予防が大切です。大人向けのワクチンは国内に3種類あり、1回の接種で複数シーズン効果が続きます ・当院ではアレックスビーを接種できます。75歳以上の方、持病のある60歳以上の方は一度ご相談ください |
本記事は2026年10月時点の情報に基づく一般的な解説です。接種の可否は体調や持病によって異なりますので、医師にご相談ください。