「ハンタウイルス」って何?クルーズ船での集団感染報道を受けて、わかりやすく解説します
2026年5月、大西洋を航行中のクルーズ船で「ハンタウイルス」による集団感染が疑われ、世界保健機関(WHO)が支援に乗り出すというニュースが報じられました。
乗客に日本人1名が含まれていることもあり、患者さんからもお問い合わせをいただいています。
今日は、呼吸器内科医の立場から、ハンタウイルスについて「何が分かっていて、何に気をつければいいのか」を整理します。
ハンタウイルスとは
ハンタウイルスは、ネズミなどのげっ歯類が保有するウイルスです。
1976年に韓国の漢灘江(ハンタンガン)流域のネズミから初めて分離され、川の名前にちなんで命名されました。
このウイルスは主に2つの病気を引き起こします。
| 疾患名 | 主な症状 | 流行地域・致死率 |
|---|---|---|
| 腎症候性出血熱(HFRS) | 発熱、腰背部痛、出血傾向、腎障害 | 極東アジア・欧州(致死率約1〜15%) |
| ハンタウイルス肺症候群(HPS) | 発熱、筋肉痛→急速な呼吸不全 | 北米・南米(致死率約40%) |
どうやって感染するのか
主な感染経路は以下の通りです。
- ウイルスを保有するネズミの糞や尿が乾燥し、ほこりとなったものを吸い込む
- ネズミの排泄物に直接触れる
- ネズミに咬まれる
重要:従来、ハンタウイルスは「ヒトからヒトへの感染は起こらない」とされてきましたが…
今回のクルーズ船の件では、WHOが「ヒト間感染の可能性もある」と発言しており、これまでの常識が覚りつつあります。
ただし、現時点ではWHOは「一般市民へのリスクは低い」とも述べています。今後の続報を注視する必要があります。
日本でのリスクは?
日本では1960〜70年代に「梅田熱」とも呼ばれる腎症候性出血熱の発生が報告されましたが、それ以降は国内での診断例はほとんどありません。
また、ハンタウイルス肺症候群(HPS)の原因となるシカマウスなどのげっ歯類は日本には生息していません。
現時点で、日本国内で日常的にハンタウイルスを心配する必要は低いと考えられます。
ただし、以下のような場面では注意が必要です。
- 流行地域(中国、欧州、南北アメリカ)への渡航後に発熱した場合
- 倉庫や小屋の清掃、古家の解体などでネズミの糞尿に曝露された後に発熱や筋肉痛が出た場合
医師が注目するポイント
ハンタウイルス肺症候群(HPS)は、初期には発熱、筋肉痛、倒怠感と、一見するとインフルエンザと区別がつきにくい症状から始まります。
その後急速に呼吸困難が進行し、肺水腫から呼吸不全に至るのが特徴です。
「発熱の後、数日で急に息苦しくなる」という経過は、通常の風邪やインフルエンザではあまり見られない急展開であり、流行地域への渡航歴と合わせて重要な手がかりとなります。
予防の基本――「ネズミとの接触を避ける」
ハンタウイルスには現時点でワクチンも特効薬もありません。予防の基本は「ネズミとの接触を避ける」ことに尽きます。
日常生活での注意点:
- 倉庫や小屋の清掃時は、乾いたほこりを舞い上げないように、まず換気し、湿らせてから拭き取る(湿式清掃)
- 古家の解体や農作業の際にはマスクと手袋を着用
- ネズミの糞を見つけたら、干かさず消毒液で湿らせてから除去
- 家庭内へのネズミの侵入経路を塀ぐ
海外渡航時の注意点:
- 流行地域でのアウトドア活動時は、テント内にネズミが入らないよう食料管理を徹底
- 帰国後2週間以内に発熱や筋肉痛が出た場合は、渡航歴を伝えたうえで早めに受診
ハンタウイルスの感染の特徴
ハンタウイルスには「ネズミから人にはうつるのに、人から人にはうつらない」という、ちょっと不思議な特徴があります。
この特徴や、ウイルスが感染する条件などについてもブログに書きましたので、ぜひご一読ください。
倉知内科からひとこと
ハンタウイルスは、現時点で日本国内でおそれる病気ではありません。過度に不安になる必要はありませんが、「どんなウイルスなのか」を知っておくことは大切です。
特に西成区は古い建物も多く、個人的には倉庫や物置の清掃時の粉じん対策(換気・湿式清掃)は、ハンタウイルスに限らず呼吸器の健康を守るために良い習慣です。
クルーズ船の件については、今後の続報を注視しています。